『新年好・・・四龍島間奏曲』
四龍島、白龍市。 冬の夜である。 色街花路では今宵、年越しの祝いが催される。 花の時分の大春節とは別に、寒いなか、本土と同じく暦を切り替える節目が訪れる。 昨夜、白龍屋敷を訪れて飛は告げた。 「仲間と水入らずで過ごすつもりだ。年がら年中『龍』にばかり尽くすわけにもいかない」...
『サンキュウのカクゴ』 ~お坊さんとお茶を~
百猫山孤月寺は、東京下町にひっそりと山門を開く赤字寺。 その台所から、とんとんとん、とリズミカルな音が響いている。 僧侶見習いの三久は商店街への使いから戻ったばかり。 バタバタ台所へ降りたとたん、慌ててなかへ声をかけた。 「あっ、空円さん!? 斎座の支度は僕がやります!」...
『去年の春 君を知りぬ』~kozo no haru kimi wo sirinu~
四龍島西里、花路。 「聞いてくださいよ、頭。俺はもうどうしていいんだか、てんでわかりません!」 孫大兄が弱り切った様子で床に座り込んでいる。 羅漢のねぐらの古妓楼だ。 色街界隈の端である。 夜が明けてだいぶ経つというのに孫がいっこうに引き揚げようとしないので、渋面の羅漢が時...
『翠玉揺々・・・花姫純情後話』~四龍島春2018版~
白龍屋敷、南荘。 春の夜風が、ふわりと部屋のうちまで忍び入る。 「来たか、花路」 冷ややかな美声に招かれ、そこに足を踏み入れた。 身動きの邪魔にならぬ短衫。 背に打ち靡く漆黒の髪。 月明かりを受けてあらわとなる、しなやかな体躯。...
『夏暇』~四龍島ナツヤスミ~
四龍島、西里。 暦の上ではそろそろ夏も過ぎようという時節であるが、昼間の暑気がいまだ冷めやらず、まるで家々の屋根が見えない炎を噴き上げて夜空を焼くようだ。 山の手の白龍屋敷である。 「街の主に夏暇(なつやすみ)というものはないか、執事どの」...
『龍は繙く』~Dragon's Day~
四龍島、西里。白龍市。 山の手の白龍屋敷に大声が響いている。 「おおいっ、マクシム! マクシミリアン! 本を知らないか?」 クレイ・ハーパーが愛読書を探しているのだった。 回廊の角まで来てちょうど屋敷執事の万里に出会い、訊いてみる。...
『聖夜天』~四龍島Christmas 3~
降誕祭だ。 本土居留区あたりでは賛美歌もとうに尽きたころ。 「あんたは、俺がそれを、ありがたがると思うのか。マクシミリアン」 「喜ばないと言うのなら、強いてでも喜ばせるまでだ。花路」 押しつけられたのは濃紺に銀砂子の飾り帯。...
『聖夜花』~四龍島Christmas 2~
凍てつく星々がいまにも天から降り注いできそうな夜だ。 賑わう色街から山の手へと上がれば、酒気に温められていた体が、いつの間にやら、す、と冷える。 「寒いぞ、着ていけ」と仲間がよこしてくれた上着を、やはり羽織ってくるのだったと飛は苦笑した。 「邪魔をする。『白龍』」...
『聖夜思』~四龍島Christmas 1~
四龍島西里白龍市、山の手。 「やっぱりなんだか違うなぁ」 屋敷居候のクレイ・ハーパーが、目のまえの贅沢な食事を眺めて溜息をついていた。 「七面鳥は本土の居留区でも手に入らなくて家鴨が出てきてたけど、なんていうかこう……クリスマスっていう雰囲気からは遠いなぁ」...
『飛花 龍唇を惑わす』
誰かが言った。 〃物欲しげに揺れた花の罪に違いない〃 ※ ※ ※ 四龍島、白龍市の夜。 「なあ、マクシム。本当にいいのかい? あとから万里にむっつり顔で小言を言われたりしないかい?」 葡萄酒の瓶を抱えたクレイ・ハーパーが、覚束ない足どりで暗い石段を降りている。...