『月下薔薇夜話逸文 弐』
長春城外城、皇太兄府。 宵闇の降りた後庭に、嫋々たる琴の音色が流れている。 名手でもなかなか弾きこなせないという秘曲を、緩急自在に響かせるのは邸宅の主だ。 桃李はつい聞き惚れ、楼台の手前に足をとめた。 花の香りが漂う。 四季咲きの薔薇だ。...
『月下薔薇夜話逸文 壱』
長春城、初夏。 待夏園の牡丹が今年は少々早く開いた。 昨年は先帝崩御の喪のうちであったので、花園の門も鎖されていた。 二十五月の忌みが明けて、今年は朝から晩まで都人が花見に詰めかけている。 春湖畔の天鏡楼で、青桐がうきうきと声を上げる。...